ボーダーライン〈前編〉

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 二人が振り向く。

 柔らかいウェーブのかかった、ショートウルフの茶髪の小柄な、幼く見える女性。

 右耳の後ろでシュシュをした、右肩から後ろ髪を前へ流している黒髪の、僕とあまり変わらない背丈の女性。

 全然タイプが違うが、二人ともすごく魅力的だった。

「あっえーと…探し物を。こっちの彼女が、イヤリングの片方を落としちゃって」

 小さい彼女が困った顔をして言った。

 背の高い彼女の耳を見る、シルバーのシェル型のイヤリングがひとつ、寂しそうに揺れていた。

「そりゃ大変だ、この辺りで落としたんですか? 僕らも探すの手伝いましょう。
 イヤリング、見せて貰えます? いや、外さなくていいですから…」

 僕の後ろからひょいと顔を出した松堂さんはそう言って、彼女に近づいてイヤリングをまじまじと見た。

 あなた、初対面の人なのによくそんなに近づけますね。彼女もだけど、僕もかなりドン引き。

「ホノちゃん、一緒に探して貰おうか? ついさっきだから、見つかると思うんだけどな…」

「あ、うん…」

 そう言って二人はまた砂地に目をやる。

 僕らも懸命に目を凝らして、イヤリングを探した。

 ふと、松堂さんの視線が小柄の彼女を捉えているのに気付く。

 ベビーフェイスに、豊かな胸の膨らみ。

 このギャップに浮き立っているのが手に取るように分かる。鼻の下が伸びてるし。

 なんか…こんな下品な人と一緒にされたくないと思い、僕はそっと松堂さんから離れた。

 その時、僕の素足に硬い違和感があった。

「いたっ…あっ?」

 足を静かに上げると、砂からわずかに銀色が出ていて、それを摘まむと、探していた片方のイヤリングだった。

「これっ…そうですか!?」

 声を上げると、シュシュの彼女が駆け寄って、はいそうですと嬉しそうに言った。

 何度も頭を下げられて、僕は恐縮してしまった。

「よかったよかった、見つかって。
 あのー、何かのご縁だし? よかったら向こうで飲み物でも飲みませんか」

 このチャンスを逃すまいと、松堂さんがグイグイと押す。

 僕はもう戻りたかったが、松堂さんがすかさず僕の海パンを引っ張って離さなかった。

 小柄の彼女が困惑顔をして、何かを言う前に、シュシュの彼女がずいっと庇うようにして間に入った。

「この人は、人妻だからダメですっ」

 彼女の言葉に、松堂さんだけでなく僕もあっけにとられた。え、すごく若そうだけど、奥さんなの?

「ホノー? 勇実いさみ
 どこに行ったかと思ったら…何してんだ」

 そうしている内に、向こうから長身の男性が歩いてきて、僕と松堂さんの姿を認めると、早足になった。

 明らかに怒気を含んでいて…やばいと思った。

 それは松堂さんも同じだったようで、僕の顔を見ると苦笑いをした。





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