ボーダーライン〈前編〉

31/52ページ

前へ 次へ


 その日、全ての運搬を終えて図書センターに戻ると、神保さんがデスクにカレンダーを拡げて、ボールペンをくるくると回していた。

 僕が戻った気配に気づいて、

「木庭くーん、夏休みはどうする?
 バイト、入りたかったらいつでも来ていいよ。交通費もお昼ごはんも出るし。
 まぁだいたい、帰省とか旅行とかで来ない子がほとんどだけどねぇ」

 振り向き様に僕にそう言った。

「来ていいんですか? 俺、稼ぎたいのでいっぱい入りますよ。
 …あ、ちょっと、サークルのイベントがあるから、そこは避けたいですけど」

「ふーん? それいつ?」

「えーっと、どうだろ、もう日程決まったかな…」

 紡木さんと別れた後の運搬の途中で、いけないと思いつつ掲示板を見ていた。特に予定はなかったので、いつでもいいと書き込んだ。

 神保さんの前でスマホを出す。あーらら、仕事中にいっけないんだぁとお茶目にからかわれて、思わず苦笑いをした。



【それでは、ツムちゃんの誕生日の8月3日にしたいと思いますがいいですかー?】



 部長の松堂さんのカキコミ、【了解!】【楽しみー♪】などの文章やスタンプの嵐。

 紡木さんが照れたウサギのスタンプを送信していた。

「あ、8月3日で決まったみたいです。それ以外でなら、宜しくお願いします」

「ハッハッ、了解。
 えーと、木庭くんの都合でいいんだけど、出来たらこの日と…この日と…あっあとここもか…人手が足りないから来て貰えると助かる…」

 神保さんの希望の日を手帳に書き込む一方で、紡木さんの誕生日が分かって、心が浮き立った。

 僕の誕生日は8月23日、紡木さんが先にハタチになる。





31/52ページ
スキ