ボーダーライン〈前編〉
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その日、全ての運搬を終えて図書センターに戻ると、神保さんがデスクにカレンダーを拡げて、ボールペンをくるくると回していた。
僕が戻った気配に気づいて、
「木庭くーん、夏休みはどうする?
バイト、入りたかったらいつでも来ていいよ。交通費もお昼ごはんも出るし。
まぁだいたい、帰省とか旅行とかで来ない子がほとんどだけどねぇ」
振り向き様に僕にそう言った。
「来ていいんですか? 俺、稼ぎたいのでいっぱい入りますよ。
…あ、ちょっと、サークルのイベントがあるから、そこは避けたいですけど」
「ふーん? それいつ?」
「えーっと、どうだろ、もう日程決まったかな…」
紡木さんと別れた後の運搬の途中で、いけないと思いつつ掲示板を見ていた。特に予定はなかったので、いつでもいいと書き込んだ。
神保さんの前でスマホを出す。あーらら、仕事中にいっけないんだぁとお茶目にからかわれて、思わず苦笑いをした。
【それでは、ツムちゃんの誕生日の8月3日にしたいと思いますがいいですかー?】
部長の松堂さんのカキコミ、【了解!】【楽しみー♪】などの文章やスタンプの嵐。
紡木さんが照れたウサギのスタンプを送信していた。
「あ、8月3日で決まったみたいです。それ以外でなら、宜しくお願いします」
「ハッハッ、了解。
えーと、木庭くんの都合でいいんだけど、出来たらこの日と…この日と…あっあとここもか…人手が足りないから来て貰えると助かる…」
神保さんの希望の日を手帳に書き込む一方で、紡木さんの誕生日が分かって、心が浮き立った。
僕の誕生日は8月23日、紡木さんが先にハタチになる。
…