ボーダーライン〈前編〉
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季節がゆっくり移って、夏が始まろうとしていた。
その頃までにはもう、僕はだいぶ紡木さんと親しくなっていた。
登山サークルには月に一度顔を出すのが精一杯で、本格的なハイキングや体力作りにはほとんど参加出来てなかったけれど、バイトの運搬では毎日のように顔を合わせていた。
挨拶から始まって、日々の雑談、講義のあれやこれや、長話は出来ないけれど、僕にとっては濃密な時間だった。
「もうノブくん、まだ、呼べない?(笑)」
「あ、はは。その内ね。じゃあまたね、紡木さん」
そう、僕はまだ、紡木さんを紡木さんと呼んだままだった。
一方、神保さんと槙村さんとは一層親密になっていた。
神保さんは本当の父親みたいによくしてくれて、いつも穏やかで、何でも相談できた。
槙村さんはとにかくお喋りで、「コバッキー! ねぇ聞いてよ…」ポンポン話を飛ばすのにも、僕はずいぶん慣れてしまった。
慣れてしまったので、僕も神保さんみたいに「せーちゃん」と呼ぶようになった。
初めてそう呼んだ時、槙村さんは鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしてたけど、
「ん、まぁいーよ。あーあ、神さん以外にそう呼ぶの増えちゃったな」
と、まんざらでもない風に、イッシッシと笑って言った。
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