ボーダーライン〈前編〉

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「あっそうだノブくん、ここで会えて良かったよ。
 け…松堂さんに、ノブくんにサークル掲示板の説明してないだろって言われてて。
 あのね、このアプリってやってる? この中で私達の掲示板置かせて貰ってて…」

 あ、また。紡木さんの言い直し。

 モヤモヤしながらも、紡木さんが一生懸命説明してくれるのを聞いた。

 そしてひと通り終わって、「分からないことがあれば何でも聞いて」と紡木さんが言ったタイミングで、

「あのー、紡木さん。ずっと気になってて…不躾な質問しちゃうんだけど…
 紡木さんと松堂さん、付き合ってるの?」

 勇気を出して、聞いてみた。

「えっ!
 ちょっ、ちがうちがうちがうから。
 何でそんな話になるかな、そんなんじゃないんだよぉ、ほんと」

 顔を真っ赤にして全力否定をする紡木さん。

「だって…すごく仲良く見えるよ。
 呼ぶ時もなんか、いちいち苗字に言い直してるし」

 少しわざとらしく怪訝な眼差しを向けると、紡木さんはますます慌てふためいた。

「あっそれはね…あのね。実はね。
 松堂さんと私、実家がご近所さんで。小さい頃よく遊んで貰っていて、剣ちゃんって呼んでたの。
 中高は全然会わなくなっちゃって…大学に入って、偶然再会したの。
 昔と同じに呼んだら、大学ではそれはやめてくれって怒られちゃって。
 でも昔のがすっかり馴染んじゃってるから…いつも、言い直しちゃうのですよ」

 そこまで言い切った後、紡木さんはえへへと照れ笑いをした。

 なるほど、訳は分かったけど、まだモヤモヤが残るのは…松堂さんを話題に出した時の、紡木さんの笑顔のせいだと思った。

「そうなんだ。
 …あ、もうこんな時間。早く戻らないと神保さんが心配する。
 じゃあ紡木さん、またね」

 早口でそう言って、バックヤードに向かおうとした時に、

「あっうん、ごめんね、忙しいのに足を止めさせて。またね。サークルでもここでのやりとりでも、これからもよろしくね」

 紡木さんが僕の背中に向かってそう言った。

 肩越しに視線を送ると、紡木さんは笑顔をくれた。

 あれは、僕だけのものだよね?

 これからは紡木さんと接触する機会が増えるんだから、それをよしとしなくっちゃ。

 たとえ…松堂さんの存在が紡木さんを揺るがしているのだとしても。

 僕は…紡木さんといれる時間を、空間を、大事にしたい。

 そんな事を漠然と思った。




 ──思えばここが、始まりだったんだ。





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