ボーダーライン〈前編〉

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 それから数日後。

 バイトの図書館への運搬でまたカウンター内に入ると、紡木さんがいた。

「あっノブくん! こないだはお疲れさま」

 泣き袋の目元が相変わらず眩しい。ドキドキしながら僕は答える。

「あ、お疲れです…あの、この資料をここに運ぶように言われたんですが…」

「はい、じゃあここに置いてもらえますか…って、はは、敬語に戻ってる(笑)」

「あっ…そう…だね。ゴメン」

「ふふ、お互い様」

 言いながら、紡木さんも運ぶのを手伝ってくれた。

 本日最後の運搬場所。日暮れ時の時間帯。紡木さんの勤務時間は…ここ?

「あの…紡木さんは、いつもこの時間帯に司書してるの?
 俺、4月からこのバイト始めてるけど、今まで紡木さん見かけた事なかったよ」

「あっウン、そうだよ。よほどの事がなければ平日毎日、閉館の19時まで。
 今まで図書センターの人と顔合わせた事なかったから、初めてノブくんがここに来た時はビックリしたよ」

「そっかぁ。あ、じゃあ…これからは、届ける資料がある時はこの時間帯に来るようにしてもいい?
 その…知ってる人がいる方が…安心するから」

「うんうん、もちろん。私も、ノブくんなら安心するよ。じゃあこれからは、そんな感じで(笑) 宜しくお願いします」

 社交辞令と分かっていながら、優しい言葉に舞い上がる。

「…あっ?」

 突然、紡木さんが声を上げる。

「ごめん…今突然、思い出した。
 ノブくんて、先月、ここでバイト募集のメモ取っていった人? 違ったらごめんなさい」

 あ…思い出してくれた。

 なんで今? という疑問は、気付いてくれた嬉しさにすっかり掻き消された。

「ふふ…そうです(笑)
 その節はお世話になりました。おかげ様でいいバイトにありつけました」

「やだもう、何で今まで気づかなかったんだろう? ノブくんもさぁ、早く言ってくれたらよかったのにっ」

 頬に手を当てながら恨めしげに言う紡木さん。

 少しずつ彼女に近づいていってるような気がして、また、お酒を飲んだ時みたいに、心がフワフワしだした。





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