ボーダーライン〈前編〉

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 そうしている内に、料理が次々と運ばれて、すっかり宴会の準備が整った。

「そんじゃ、堅苦しい挨拶?(笑) はここまでにして。
 新入生諸君、ようこそ我が登山サークルへ。仲良くやっていこうな。
 かんぱーい」

 カチカチンとグラスの音色が響いて、食事がスタートした。

「そのまま食べながらでいいから、今から順番に簡単に自己紹介していこう。まず俺。
 松堂剣佑、情報処理学科3年、今年で23。
 えーっと、よく呼ばれるアダ名はまっつんです、宜しく!」

 いいぞ部長ー! と盛り上がる中、え? と顔を見合わせる僕達新入生。

 3年生で23歳、だって? 色々、計算が合わないんだけど。

「あー補足補足。
 俺、一浪して、1年の時単位全部取れなくって、留年してまーす」

 松堂さんの爆弾発言に、いよっ登山バカ! 男らしー! と声が飛んだ。

 ますます訳が分からないでいると、反対側の隣に座っていた先輩が、

「アイツね、ハマり過ぎて1年生のほとんどを山登りに費やしたんだよ。
 日本の山はほぼ制覇したらしい。いやー、バカだね(笑)」

 と教えてくれた。

 あぁそれで? 僕が一浪って分かったの? 野生のカンってヤツ?



 それから、次々に先輩達が短い自己紹介をしていった。名前、学部学年、アダ名。

「紡木奈津です。国文学科2年、このサークルではツムちゃんで通ってます」

 紡木さんがはにかみながら話すのを、可愛いなと思いながら見ていた。

 そして僕の番が来て、

「木庭信暉、です。国文学科1年、えーと、アダ名は…」

 コバッキー!

 槙村さんの小憎らしい笑顔と共に頭に浮かんだ呼び名を必死に掻き消して、

「ノブとかノブくんとかよく呼ばれてます」

 ちょっとー! とまた槙村さんが憤慨する姿を浮かべたけど、それも掻き消して、宜しくお願いしますと頭をペコリと下げた。





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