ボーダーライン〈前編〉

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 やっと逢えたのに。嬉しいはずなのに。自分の中でドロリと何かが流れた。

「あ、ツムちゃん、誰か来たよ?」

 僕に気が付いて、チラシの彼が【紡木】さんの肩を叩いた。

「あっはい、こんにちは。どういったご用でしょう?」

 振り向いた彼女は、あの時と変わらない、泣き袋の目立つ笑顔を僕にくれた。

 でも…僕の事は、覚えていないみたい。ショックだった。

「あ、えと、これをこちらに、運ぶように言われて…どこに置いたらいいですか?」

「あ、そしたらこっちのカウンターの下に…」

 彼女の誘導で、迅速に資料を運ぶ。最後の束を置いた所で、あっ! と彼女が僕を見て声を上げた。

 もしかして、思い出してくれた?

「その本、返却ですか?」

「へ?
 あ、あぁ、そうです、今日が最終日で」

 すっかり忘れてた、本の事。ずっと手に持っていたそれを掲げる。

「よかったぁ、ずっと借りられてて、戻ってきたらすぐ借りようと思ってたんです」

 そうなんだ。この本、読みたがってたんだ。

「あ、いや…借りっぱなしで俺の方こそ、なんかすいません」

「あっそんな、そんなつもりで言ったんじゃなくて…私こそごめんなさい!」

 互いに平謝りしながら、僕達は返却のやりとりをした。

 その様子をカウンターの向こうから静かに見ていたチラシの彼が、

「じゃあツムちゃん、またな。さっきの話よろしく。
 あっ、そこの1年生くんにもよかったら説明してやって。
 ねぇキミ、あの時のチラシ読んでくれた? いつでも大歓迎だからね~」

 最後に僕に向けてニヤリと笑って、ゲートをくぐって外へ出ていった。

「え…けん…松堂さんの知り合いなんですか?」

「あ…いや…」

 目を丸くして聞いてくる【紡木】さんに、なんて答えていいのか分からなかった。

 ただとにかく、覚えてくれていたのが【紡木】さんじゃなくあの人だったって事に、妙な腹立ちを感じた。





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