ボーダーライン〈前編〉

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「せーちゃんはまた、変なアダ名付けて遊んで。
 木庭くん? せーちゃん、こんな子だからあんまし気にしないでやって」

 僕に缶コーヒーを、槙村さんに缶カフェオレを渡しながら、神保さんは苦笑いをして言った。

「なによー、先に変なアダ名付けたのは神さんじゃん。神さんのマネしてるだけですよーっだ。
 せーちゃんなんて、誰にも言われた事ナイわ~」

 うひゃひゃと笑いながら、槙村さんはカフェオレに口を付けた。

「木庭くん、それ飲んだら今日は上がりだよ。お疲れさん。次、いつ来れるかな?」

「あ…はい…えと…明後日行けます。あと、その次も行けます」

 神保さんが聞いてきたので、僕は胸ポケットからスケジュール帳を取り出して、ペラペラとまくりながら答えた。

「うんうん。
 じゃあその2回までは、僕が付くから。その後は一人で動いて貰うようになるよ。
 この書店も、君の運搬ルートに組み込んでおくから」

「えーっ、神さん来なくなるの? いーやーだー」

 神保さんの提案に槙村さんがブーブー文句を言っている所で、店の自動ドアが開いて「お疲れ様でーす」と中年の女の人が入ってきた。

「あっもう交代の時間だ!
 じゃーまたね、神さん。コバッキーも。シャッキリ働いて、ガッポリ稼ぎなよー(笑)」

 カウンターの中で素早く身支度して、濃い青と白のマリンボーダーのショルダーバッグを翻しながら、槙村さんは書店を出ていった。

 ボーダー…

 僕はふと【紡木】さんを思い浮かべた。

 今日のバイトで図書館にも届け物があったが、彼女の姿は見えなかった。

 お昼に借りた本がこの書店にもあって、隅っこの方でひっそり並べられていた。

 そこをぼんやり見つめながら、彼女がカウンターにいる時に本を返したいな、と思った。





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