レンズの向こう側
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最後に男に触れられたのはいつだったっけ?
大学を卒業した後に行った研究室の仲間達との飲み会で、わりと気の合った同級生から「ずっと好きだったんだ」と告白された。
酒の席でのそれだったから本気にしてなくて、「はいはい、ありがとね」と軽くあしらったあたし。
すると彼は「最後に思い出が欲しい」と言って、隣の空いてた座敷の部屋へ連れ込んで、酒くさい唇をあたしに寄せてきた。
あたしは咄嗟によけて、でもあたしも相当酔いが回っていて、彼が体ごと覆い被さるのを防げなかった。
あたしを下敷きにした彼は、服の下に手を入れて荒々しくあたしの胸を揉み回した。
気持ち悪さと怒りが沸いて、股間に蹴りを入れようとしたけど、彼は更に強い酔いがまわったらしく、あたしの胸を掴んだままぐうぐうと寝息を立てた。
なんなんだもう、と思いながらどうにか下敷きから脱出して、
「○○くん酔い潰れちゃったから、隣で寝かせてるよー」と素知らぬフリをして、早々に帰宅した。
情けないけど、これが最後の性的出来事。
あとはノブキのやけっぱちの時期のアレと…高校時代のあまりいい思い出のない初エッチと…それくらいしか経験のないあたし。
だから、今ノブキがあたしを想ってあたしを求めて、あたしもノブキを想ってノブキを求めてる、この幸せな状況はあたしにとって人生初で…
好きの気持ちが止まらないのがこんなに恐いなんて、初めて知った。
「…ノ、ブ…
うう…こわい…」
頭の中で唱えたつもりだったのに、声が出てしまっていた。
ノブキが動きを止めた。
「せー、か…
やっぱり…コワイ?
おれのこと、コワイ…?」
あたしはハッとした。
ノブキがあたしから離れようとしてる。
ちがう、そうじゃない。
あたしはノブキの胸にしがみついて、擦り付けるように首を横に振った。
「せーか…ホント…?」
遠慮がちに腕を回すノブキに、あたしは言った。
「ノブ…コワクナイ、から…
…ヤメナイデ…」
…