レンズの向こう側
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山小屋で聞いたのと同じトーンの、呼びすて。
また同じように、暴れだすあたしの心臓。
こんな雪の中にいるのに、あたしの体は発火したみたいに熱くなった。
顔もきっと真っ赤、でも山小屋の時と違って隠す事が出来ない。
「ンッ…ノブ、キ…」
そんなことないって伝えようとして、口をモゴモゴと動かすけれど、それがかえって、その、官能倍増というか。
ああ、だめだ、頭が痺れてきた…
残る気持ちは、ノブキが好き、それだけ。
しばらくして、ノブキが少しだけ唇を離して、あたし達の間をキンと冷えた空気が流れていった。
でも体はピッタリと寄せたまま、ウェア越しだけどお互いの熱は十分に伝わる。
至近距離のまま、あたしから視線を外さないまま、ノブキは言った。
「せーか…せーかって、言っていい…?」
「ノブキ…ノブキズルい…呼びすて…」
「ゴメン…やめる?」
ノブキ、いじわるを言う。
「…ううん…
…やめないでよ…
…心臓破裂しそう…
…もっと呼んでよ…」
「う…わ…
せーか。
せーか。
ねえ。せーか。
おれのこともよんで。
ノブ、って、よんで…」
またそんな、声を潰しながら言うから、胸をきゅうと摘ままれて、一旦深く息を吐いてから、ノブキを呼んだ。
「ノ、ブ…ノブ…?
う、わ…ノブっていうたんびに、スキのきもちがつよくなる…
どうしよ…とまんない…
ノブ。ノブは?
あたし、ノブがスキ、スキだよう…
ノブ。ノブ。どうしよう…とまんない…
…こわい…」
制御出来なくて恐くなった、溢れて止まらないノブキへのスキ。
それを堰止めるかのように、ノブキがまた唇を塞いだ。
あたしの唇の上下を激しく吸う、チュウ、チュウ、としんとした空間に響き渡る。
せーか。ノブ。せーか。ノブ。
あたし達は掠れ声で何度も連呼して、その度に心臓が突き上げた。
「せーか。
ねえ。せーか。
コテージ入ろ」
ウェアの上から撫で回しながら、ノブキが上気したカオで言った。
こくりと頷いたあたしも、きっと同じカオだったにちがいない。
…