レンズの向こう側
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「笑い事じゃないよ、もー。本気で心配したんだから」
眼鏡ケースからクロスを取り出して、口を尖らせながらレンズを拭くノブキ。
そうだよね、あたしが悪い。
「すぐに入らなくてごめんね…隣に焼き鳥屋さんが出ててさ。
試食させてもらったんだけど、すっごい美味しかったんだ。
ノブキと食べたいと思って買ってきた。ほら、いっぱいオマケして貰ったんだよ」
目を丸くしながらあたしの話を聞いていたノブキだったけど、一本串を摘まんでひとかじりすると、次第に笑みが顔に広がった。
「うまっ! ナニコレ」
「でしょでしょ。ほら、座って食べよ?」
ノブキの手を取って、昼間座ったのと同じ席に座った。
「その焼き鳥のおじさんがさ、あたし達を知っててさあ、なんか色々見られてたっぽい(笑)」
「うわ、俺達騒ぎ過ぎた?(笑)」
焼き鳥に舌鼓を打ってる内に、あたし達のぎこちない空気もどこかへ飛んだ。
うん、もう大丈夫。いつものあたし達だ。
「ノブキ、これからどうしよう?
まだ18時過ぎたばかりだけど、ここで夜ごはん食べてっちゃう?」
「うん。けっこう腹ペコだよ、焼き鳥だけじゃ足んない(笑) せーちゃんは?」
「あたしも(笑)」
「(笑)じゃあそうしようか。
その後は? せーちゃん、少しナイター滑る?」
「んー…服濡れたままだし、着替えてコテージでゆっくりしたいかなあ。
ノブキは? どうしたい? もし滑りたいなら、あたしも付き合うけど」
「…ううん、俺もそー思ってた。
よし、じゃあごはん食べて早くコテージに帰ろ」
この時、ノブキはあたしの手を一瞬強く握って、すぐに離した。
この意味を知るのは、少し後…
…