レンズの向こう側
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林間コースまで歩いて戻って、スキー板を再び嵌めた。
雨の後に冷たい風にさらされた雪道はアイスバーンになっていた、危ない。あたし達は慎重に滑っていく。
やっとのことで林を抜けると、あの霧が嘘のような、澄んだ夜空があたし達を出迎えてくれた。
林の中にはいなかったけど、広く拓かれた側はナイタースキーを楽しむ人がちらほら出ていて、少しにぎやか。
麓のロッジを認めると、安心からかどっと力が抜けた。へたりこみそうになったけど、なんとか頑張ってロッジまで滑った。
「せーちゃん、先にロッジに入ってて。俺、事務所に山小屋の事話してくる」
スキー板をロッジのそばの立て掛け場に置くと、ノブキは管理棟の方へ走っていってしまった。
ここでも、視線が絡まなかった…
はあと溜め息をついて、スティックを板の先に引っ掛けてロッジに入ろうとすると、どこからか肉の焼けるいいにおいが漂って、あたしの鼻をくすぐった。
ロッジの脇に露店の焼き鳥屋さんが出ていて、おじさんがゆったりと串を回しながら焼いていた。
美味しそう、そういやちょっとお腹空いたかな、と思っていると、ふとおじさんが顔を上げてあたしを見た。
「体冷えてないかい? もう少しそばにくればあったかいよ」
目尻にしわの多いおじさんは穏やかに笑って、あたしを手招きした。
呼び込みのつもりはなかったみたいで、あたしがにおいにつられておじさんの目の前まで来ると、若干目を丸くした(笑)
「あ、ちゃんと買うんで…何がありますか?」
「あーちょい待ちちょい待ち。嬉しいけど、お味見してから決めてくれ。
じゃないと、おじさんが無理やり買わせたみたいになっちまう(笑)
あ、いらっしゃい。よかったらお味見どうぞ」
あたしの後ろにいつの間にか子連れの四人家族がいて、同じ様に焼かれる焼き鳥を見ていた。
おじさんはひとつの串を取って、鶏肉を一つ一つばらして紙皿に乗っけて、つまようじを刺してあたし達に差し出した。
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