レンズの向こう側
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「…えっ、せーちゃん?
え、え、どーした? 何があった…??」
今ので完全に目を覚ましたみたい、ノブキが上半身を腕の長さ分起こして、戸惑いの声をあげてあたしを上から見つめた。
あたしとノブキの間に冷えた空気が流れ込んで、それが余計に寂しさを呼ぶ。せーちゃんに戻ったのも拍車をかけた。
勝手に涙がポロポロと溢れる…両手の甲で目を隠すあたし。
「…っ、せーちゃん、ゴメンせーちゃん…
…なかないで…」
ノブキがあたし肩の下に手を入れて抱き起こしたけど、あたしとの距離を詰めようとしなかった。
手を握りたそうにしていたけど、あたしが顔を隠しているから、代わりに背中を何度もさすった。
ノブキ、やらかしたと思ってる? 昔のあの未遂みたいな事をやってしまったのかと思ってる?
ちがうから、あたしが勝手に落ち込んでるだけだから。
いつまでもこんなじゃ、ノブキを不安にしてしまう。涙を止めようと思って、ぐりぐりとまぶたをこすった所で、
【…まもなく、17時半になります…】
ラジオからそんな声が聞こえた。
「…もう、そんな時間なんだ」
「う、ん」
あたしがラジオをぼんやり見つめながら言うのを、ノブキがぎこちなく応える。
ラジオの音は小さいボリュームなのによく聞こえて、
【…星が瞬いてきました…綺麗な夜空になりそう…霧が心配でしたが…晴れてよかったですね…】
パーソナリティがこう言うのにあたし達ははっとして、同時に窓に駆け寄った。
「…霧、なくなった」
「う、ん」
「降りれる…よね?
…いこうか」
「う、ん。うん。いこう」
あたしが淡々と話すのを聞く内に、ノブキも徐々に冷静を取り戻したみたい。
あたし達は七輪の火の始末をして、くるまってた毛布もきれいに畳んで置いて、まだ完全には乾いていないウェアを着て山小屋を出た。
ノブキと視線を絡められない…それはノブキも同じみたいだった。
…