レンズの向こう側
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まあでも、ノブキの用意周到さに今回ばかりは頭が下がるし、すっかり安心した。
七輪の火、ノブキの体温、スキーの疲れも手伝って、あたしのまぶたが徐々に重くなっていく。
「あ、このパーソナリティの人、あの時の…」
とかなんとか、ノブキがそんな事を言った時は、あたしの意識はだいぶ朦朧としてて、
(あ、ノブキの心臓の音)
ノブキの胸にもたれかかっているらしい、すごく他人事のように感じた。
この状態でもノブキは、あたしの肩や腰を引き寄せる事をしない…ただ、髪をゆっくり優しく撫でてくれて、それだけでいいや。
覚えているのは、そこまでだ。
…あれ、あたし寝ちゃってた?
どのくらい時間が経ったんだろう。
次に意識を取り戻したのは、懐中電灯の光は落とされていて暗い、ラジオの音も最小限のボリュームになっていた。
あたしはまだはっきりと目を開けていなくて、それでもぼんやりとした頭で、意識を落とす前と状況が違う事に気付いた。
(あたし、床に寝てる…)
ノブキにもたれかかっていたはずの自分の体が横になってる、ノブキが寝かせてくれたのかな。
少し身をよじろうとしたら、全く動かなかった。
(なんで?
…あ)
ノブキが…あたしを腕枕する形で横からあたしを抱きしめていた。
あたしの左のこめかみに頬をくっつけて、腕枕をしていない方の腕があたしの腰をきつく取り巻いている。
あたしのまつ毛にかかる、ノブキの寝息。
ノブキがこんな風にあたしを閉じ込めている状況に、あたしは激しく動揺した。顔に熱が集まって、息が苦しい。
(う、わ、ノブキ)
ノブキがこうするのをずっと望んでいたのに? いざそうなると、恥ずかしいのが上になるなんて。
たまらずノブキのハイネックトレーナーをぎゅうっと掴んだ。
すると、ノブキがもぞもぞと動いて、頬をさらに擦りつけて…
こう、言った。
「…せー…か…」
…