レンズの向こう側
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「なんか…色々大丈夫かね? 勝手に使っちゃって…」
「まあ…大丈夫でしょ。しょうがないよ、緊急時だし。火の始末さえちゃんとしておけば…
でも一応、後で管理棟行って言っとかないとね」
七輪を土間に置いて、白い息を吐きながら着火の準備をするノブキを、これまた白い息を吐きながらあたしは隣で眺めた。
「…ほら点いた。もう少ししたらあったかくなるから…
せーちゃん、脱いだのここに並べな。少しは乾くでしょ」
七輪の熱が届く板間の縁に、ずぶ濡れになったウェアとグローブと帽子と靴下を並べる。
吐息の白さは徐々に消えて、じんわりとした炭火の熱が沁みた。
「霧、晴れるかねぇ…」
あたしは窓の外を見た。さっきよりは薄くなった気はするけど、動くにはまだまだ危険だと思う。
霧さえなければ、陽が落ちて夜になってもコースには外灯が並んでるから、下へは迷わず滑っていけるはず。
「うん…」
ノブキも窓の向こうを見る。
ノブキ、ウェアだけまだ着たまま。
「ノブキも…ウェア脱いで乾かしなよ」
「いいよ俺は…着たまま七輪のそばにいれば、その内乾くから」
「何言ってんの…もう防水スプレー効いてないでしょ? 中まで染みてるはずでしょうよ」
「でも、脱いじゃったら寒い…」
「だから、ノブキも入ればいい、ここに」
「え」
毛布と一緒に両手を広げるあたしを見て、ノブキは目を丸くした。
「ほら、こんなに大きいんだよ…くっついてた方がもっとあったかいよ…
…おいでよノブキ…」
ノブキの、生唾を飲み込む音が響いた。
ノブキは咄嗟に口を手で覆って、
(…ずるい、せーちゃん)
そう言った気がして、「うん?」と首をかしげると、
「…ありがと、おじゃまします」
もぞもぞとウェアを上下脱いで、あたしの懐に潜り込んだ。
…