ボーダーライン〈前編〉

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「ちょっ…木庭くん? だっけ? 経験者って聞いてたんだけどな~」

「あ…いや…あの…スミマセン、頑張りますんで…あれぇ…おかしいな…」

「ハッハッハッ。冗談だよ。ま、徐々に慣れてくれてったらいいよ。
 さぁ色々回るから、しっかりついておいで」

「はいっ」

 その日の放課後、僕は早速図書センターで様々な資料のダンボール箱を仕分けて、台車に載せた。

 重い物なんて平気…なんて高を括ったのが間違い、バイトで培った筋力なんて、2年も経てばスッカラカンになるに決まってるじゃないか。

 僕の教育係になってくれている神保じんぼさんは、呆れながらも穏やかにそう言って、僕を引っ張っていってくれた。



 仕分けされた荷物を方々に運んでいく。

 各教室、各研究室、運ぶだけでなく、その場で開けてくれと頼まれたら開けていた。

 それを余儀なくされるのは、構内の書店。

「あっじんさん! 待ってたよ。早く並べないと」

 レジの女の子が神保さんの顔を見るなり叫んだ。

「せーちゃん、悪い悪い。今日から新しい子が入ってね、教えながら来たから。
 木庭くん? こちら、槙村まきむら清佳せいかちゃん。
 ここに運ぶ時は大抵彼女が対応してくれるから。
 えーと、せーちゃん、今何年だっけ?」

「英文学部3年、21。
 ほら、早くビニール外して、並べるの手伝って!」

 僕にちらと視線を送って忙しそうに動く、やたらと声のボリュームが大きい、この槙村さんという人が…ちょっと、おっかなかった。





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