レンズの向こう側

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 さあ、ノブキも上達した事だし、今度は違う所を滑ってみようか。

「せーちゃん? なんか、人が少なくなってきたね?」

「うん? …ほんとだ、天気が下り坂になってるからかな~」

 昨夜の天気予報通り、午後に入ってから少しずつ雲が厚くなって、あたし達が初心者用のゲレンデの頂上に着いた頃には太陽が見えなくなっていた。

「雪が多く降ってくるかな…まあ願ったり叶ったりよ。新雪の上を滑るのも気持ちいいよ?」

 そう言ってあたしは、更に上へ昇るリフトへノブキを連れていった。

 これの終着点は、上級者が好む傾度のきっつい斜面のコース、それから、ゴールまで長いけど緩やかな、初・中級者が滑りやすい林道コース。

 言うまでもないけど、あたし達が滑るのは林道コース。

「わあ、この中を抜けていくの? なんだか探険に行くみたい(笑)」

 やっぱり男子だから? ノブキ、ワクワクしてる模様(笑)

「うん。でも難しい場所も時々あるから。そこはちゃんと教えるからね。ノブキ、あたしから離れないでね」

 はあい、とノブキが返事するのを聞いてから、あたしは滑り出した。

 警戒してるのか、八の字でノブキは滑るからどうしても間が空いてしまう。

 あたしはスキー板を閉じたり開いたりを繰り返してスピードを落として、カーブでは必ず止まった。

「あっ見てせーちゃん! 俺今、足閉じたまま曲がれた!」

「おおー、やったねノブキー」

 こんなおおっぴらに喜べるのも、あたし達以外誰も滑ってこないから。

 辺りはしんと静まり返って、あたし達がおしゃべりをやめると耳が痛かった。

 そして…林道は暗い。まだお昼なのに、もう外灯が点きだした。

「せーちゃん、今度は待ってなくていいよ。俺、せーちゃんについていけそうな気がする」

 ノブキの頼もしい発言に乗ってみる事にした。

「本当に? じゃあそうしてみようか。でも、追いつく気配が無かったら待ってるからね(笑)」

 ノブキを気にしながらの滑降を解除して、あたしは自由なスピードで滑り出した。

「…あれ、やっぱり無理か?(笑)」

 カーブを3、4回ほど通過したところで、ノブキの気配を感じられなくなったので、次のカーブの所で待つ事にした。

 今どの辺かな、多分まだ半分も越えてない。記憶ではすごく長い長いコース。

 ゲレンデマップで確認したかったけど、それはノブキが持ってるんだった。

 ノブキの姿が見えるのを待ちながら、あたしは滑ってきた道をぼんやりと眺めた。





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