正午を少し過ぎるまで、あたしはノブキにつきっきりでスキーをレクチャーした。

　元々ノブキは器用で、何でもそつなくこなせる方だと思うんだけど…スキーはどうもそうはいかないみたいで、本人曰く、「自分の意思に反して滑っていっちゃうのが、なんかイヤ」らしい(笑)

　それでもどうにか、転び方や止め方を覚えて、シュテム(基本直滑降、曲がる際に八の字)で上手く滑れるようになったところで、少し遅いランチタイム。

　入場口そばの大きなバンガロー、スキーヤーの暖をとる為のストーブがガンガンに効いて、冷えきった体をあっためてくれる。

　フードコートでそれぞれ食事を注文して、窓ガラス沿いのウッドカウンターで横並びに座った。

「ノブキ、写真の方はもう大丈夫なの？」

「うん。上で撮ったので事足りたよ」

「へえ。見せて見せて」

　ノブキがカメラをあたしの手元に置いて、スライドショーに設定してくれた。

「わあ…」

　ノブキは本当に上手いな。自分の目でも実際に見てみたくなる。

　あの時、ひとりで滑っていかないで、ノブキと一緒にこの景色を眺めればよかったな。

「…ん？　ん？」

　ちょっとノブキ、こんな所撮ったの？？

　壮大な景色が突然終わって、あたしの滑降シーン。

　あたしと、あたしが付けたシュプールを遠目から収めたもの。

　間近で撮ったのかってくらいどアップの、あたしの横顔。

　げっ、あたしが転んだ所まで。でもそれだけ、派手に画像がブレてた。ノブキの慌てぶりがこんな所でもうかがえる(笑)

「このー、ナニ勝手に撮ってるのさっ」

　隣のノブキを見上げたら、ノブキも同じように画面を覗き込んでいたから、当然だけどノブキの顔がすぐそこにあって。

　あ、近過ぎ、と思った瞬間に、ノブキに口づけられた。

「っ」

　1秒もなかった、けど、ふと外した視線の先にガラスに写った、キスをしているあたしとノブキ、たったの1秒だったけど永遠のように感じた。

　そしてたった1秒だったけど、バンガローの外側にいた若い学生の女の子達が、ひゃあぁ、と黄色い声を上げて、ピュッと逃げていってしまった。

「ごめん」

　ノブキはペロッと舌を出して、一応申し訳なさそうに謝ったけど、何事も無かったかのようにお昼ごはんのあんかけうどんをすすりだした。

　公衆の面前でナニしてくれちゃってんの、聞いたらどうせ、せーちゃんの顔がそこにあったからとかなんとか言うんだろう。



　ほんともう、このキス魔をどうしてくれよう。





…