レンズの向こう側
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「…ツレってもしかして…この人?」
男がノブキと絡まったまま、苦笑いをしながらあたしを見上げた。
その構図が可笑しくて可笑しくて…
「は、はい…(←めっちゃ笑いを堪えてる)
あ。あの、インストラクターさんって言ってましたよね?
じゃあ是非、カレに教えてやってくれませんか?
あたしはそこそこ滑れるから、本当は自分が教えないとって思ってたんですけど…
プロの方のほうが安心だし上達も早いと思うし」
あたしの言葉に男とノブキはポカン。
そして同時に顔を見合わせて…ノブキの仔犬みたいにすがる顔を見て、男はあからさまにうざがった(笑)
「い、いや、キミが上手いなら教えるのはキミで。気心知れてる方がいいよな? な?
ひとつアドバイス…危ないって思ったらまず、お尻から転んでくれ! そしたら最低限、誰かに突っ込むのは防げるから! 頼むよ!」
男はそう言い捨てて、逃げるようにこの場を去っていった…
「あの人、このスキー場のインストラクターさん? 教えて貰いたかったなぁ」
本気で指導をお願いするつもりだったみたい(笑)、ノブキが残念そうにつぶやいた。
「いいよ、あたしが教えるから。
っていうか、ノブキほんと危ない。なんだってあんなスピードで滑ってきたのさ」
「だって」
「ん?」
「せーちゃん、思いきり転んでたし。その時から滑り出してたんだよ。
で、あの人が近づいてきて…やたらせーちゃんにまとわりつくからさ? 無意識に直滑降でスピード出しちゃって…
途中で八の字に戻したけど、全然ブレーキ効かなかったんだよ」
「……ふっ」
ノブキなりに危機感を持ってのあのスピードだったワケね。そう思ったら、せっかく引っ込めた笑いがまた込み上げてきて、慌てて口を片手で覆った。
「もう~、せーちゃん笑い過ぎ」
「あーごめんごめん…げふんげふん…ノブキありがとね、助かりました…げふんっ」
「もう~、本当にそう思ってる?」
いつまでも笑いむせているあたしの背中をさすって、ノブキは少し膨れっ面をしながら言った。
ノブキが写真に夢中にならずに、はなから一緒に滑ってれば、絡まれることもなかったんだよって言いたかったけど。
ノブキの天然に免じてチャラにしてあげる(笑)
…