「ノブキー！　いい加減にしてよー、滑る時間が無くなるー！」

　結局昨夜はあの後色めいた事は起きず、あたしは上で、ノブキは下でそれぞれ寝て、

　起床して昨日あらかじめ買っておいたおにぎりやサンドイッチを朝ごはんで食べて、

　スキーウェアに帽子ゴーグル手袋ポケットにカイロを身に付けて、

　重たいスキー靴も既に履いて、スキー板とスティックをスキーホルダーで繋げてまとめたのを片腕で抱きながら、

　あたしは玄関から叫んだ。

「ちょっと待ってよせーちゃん。
　上の電気消した、エアコン消した、お風呂の予約オーケー、鍵持った、財布、スマホ、カメラ…
　よし大丈夫、行きましょう！」

　いちいち細かいノブキは、出掛ける時のチェックを怠らない。

　全て確認を終えて満足したノブキは、ごめんお待たせ、と笑いながら、あたしと一緒にコテージを出た。



　予報通りの快晴。だけど、ゲレンデの積雪を撫でる北風はとても冷たくて、雪がとけちゃうかもなんて杞憂。

「午後から少しずつ曇るってよ？」

「へーそう？　じゃあ午前の内に写真撮っちゃおうっと」

　リフトの上でそんな話をして、ノブキは前に抱えていたミニリュックの中から一眼レフを取り出した。

　ノブキは高校時代は写真部だったらしい、腕前も素人以上、会社でもそのスキルは発揮されていた。

　仕事で冬の風景の写真を集めなきゃ、と前々から言ってて、この旅は絶好のチャンスというわけ。

「あっせーちゃん見て見て！　あそこ、キツネが歩いてる」

「えっ、どこどこ！」

「ほら、あそこの林の手前」

「おいー！　めちゃくちゃ遠いじゃん！　全く見えん！」

「ごめんごめん、カメラならよく見えるの(笑)」

　ファインダーを覗き込みながらノブキが笑うのを、あたしは軽くパシッとはたいた。

　デジタルカメラだから、何枚か撮った後であたしに見せてくれた。

　ふわふわの冬毛のキツネがこちらに視線を投げるのを、バッチリ捉えていた。

「うわーっ、かわいいー！　あっ、これ超ブレてる、ノブキ下手過ぎ！(笑)」

「ちょっ、それはせーちゃんがぶったところでしょー！？(笑)」

　あたし達の笑い声が雪の斜面に跳ね返ってぐわんと響いた。





…