ボーダーライン〈前編〉

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木庭こば信暉のぶきくんね。いやー助かるよ。本がギューギューに詰まったダンボールとか持ち上げたりするけど、大丈夫?」

「あ、はい、高校ん時に宅急便のバイトしてたんで…重い物には慣れてます」

「ほほーっ、そりゃよかった。んじゃあ早速、今日の放課後いいかな? 都合悪い? 今日は講義いつまで?」

「あ、この後のひとコマで終わるので…大丈夫です」

「ホイ決まり! じゃあね、終わったらまたここに来て。責任者呼ぶから。その後の話は彼から聞いてね」

 月曜日の昼休みに事務局に話しに行ったら、事務のおじさんがひとしきり喋って、いともスンナリとバイトが決まった。

 面接とかしなくてよかったのかな、家を出てからここまでの緊張は一体なんだったんだ。



 講義に行く前に、図書館に寄った。一冊だけ本を手に取り、貸出カウンターへ。

 【学生研修中】の腕章、【紡木】のネームプレート、周りに変に思われない程度に目を泳がせたけど、見当たらなかった。

 考えてみたら、講義の時間帯はいるはずない。彼女だって何かしら講義があるだろう。

「期限は4週間後です」

 今日のバイトの時に姿を見れるかもしれない、と僅かな希望を持った所に、受付のおばさんが無愛想に事務的に本を差し出した。

 【紡木】さんならこんな渡し方しない。勝手に妄想した。





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