ボーダーライン〈前編〉

2/52ページ

前へ 次へ


(僕の、愚直でサイテーだった頃の話をしよう)



「……はぁ」

 見頃を大分過ぎた桜の木から、風に煽られて散った花びらがヒラヒラと舞う。

 所々に葉っぱが生えて、申し訳ないが小汚ない、まるで今の僕の心ん中みたいだ。

 入学式の後の教室で貰った沢山の資料を抱えながら、僕は控えめに、深い溜め息をついた。

信暉のぶき? あんた、キャンパス見てくの? かあさんはもう帰るけど」

 平日だから、母親だけが入学式についてきた。長ったらしい挨拶だなんだにすっかりご退屈様、あくびを噛み殺しながら僕に聞く。

「いや、いい。俺も帰るから」

 振り返った時に太い茶縁の眼鏡がずり落ちたので、中指でブリッジを押し上げながら、母親の元へ早歩きする。

 バスや電車に揺られて1時間半かけて来た道を、また同じように戻っていった。



 一浪してまで入った第一志望の大学だったが、今、僕は何の希望も持てずにいた。

 現役で受かっていれば、こんな気持ちにならずにいられたのに。





2/52ページ
スキ