空の兄弟〈後編〉

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「不思議な物を見つけてしまったわね」

 潤子はDVDプレイヤーのリモコンに手を伸ばし、停止ボタンを押した。

 時計に目をやる。もう夕方の4時、ずいぶん長い物語だったんだと思わず溜め息が出る。

 千恵子を眺める、恐い物語に打ちのめされてぐったり気味か、片頬をこたつの卓上に押しつけたまま動かない。

 今日の晩ごはんの材料の買い出しに行かなきゃいけないんだった。

 その準備をしている途中で、千恵子が言った。

「おかあさん、今のおじいさん、とても怖かったわ」

「うん、そうね」

「あの人は、年を取っておじいさんになっちゃった、空ちゃんなのよね?」

「え?」

 潤子、胸の辺りが麻痺した感じに陥る。

 老人の、あの最後に見た妖しい目の光が脳裏に焼き付いている。

 彼が木谷悟のその後、そうだろうと思うが、何故か認めたくない。

「おかあさん。
 このおはなしの事は本当?
 戦争は本当にあったの?」

 千恵子の顔は悲しげで、潤子は、今にも泣き出しそうな我が子の気を紛らせようとする。

「ば、ばかねえ、ただのおはなしじゃないの。
 あのおじいさんだって、空悟の将来を演じた役者さんでしょう。
 ねえ、戦争なんてあったわけないわ。
 本当のことならどうして学校で教えてくれないの。
 おかあさんも千恵子も、そんなこと一度も習わなかったよね?
 おはなしを面白くする為の、ただの空想なのよ」

 しかしこれは、潤子自身の複雑な気持ちに対する弁解でもあった。

 遠くでウイィンと音が鳴る。

 停止をしたはずのあの古いDVDが、音を立てている。

 潤子の言葉を掻き消して何か言いたそうに、デッキの中で暴れている。

 プレイヤー本体の電源をオフにすると、その音はようやく止んだ。





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