空の兄弟〈後編〉

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「じいちゃん?」

 老人の様子に灯矢少年、思わず立ち上がる。

 どうやら、老人が声を荒上げるのはこれが初めてのことらしい。

 老人も立ち上がったが、灯矢少年に肩を下へ押さえられてまた座るしかなかった。

「灯矢、お前にわかるかなあ」

 老人、見開きの目を、気違いのような口ぶりをやめない。

「心を揺さぶられんでも人間は涙を流す。
 異常なほどの空っぽな心でなあ。
 戦争はみんなをそうさすねんで。
 不気味やなあ。
 は、ははは!」

「じいちゃん、ごめんね、今日はこれで終わりにするよ」

 灯矢少年、老人をなだめ、8ミリを置いてある方へ向かう。

 灯矢少年の開襟シャツの胸元がアップになったところで、画面は再び黒く潰された。

 しかし音声はまだ入ったままで、

「なあ灯矢。
 いつか戦争をお伽話にしか見なくなる人らにも、俺の話がうまく伝わるやろか?」

 だいぶ落ち着きを取り戻したらしい、老人の声が遠くから飛んだ。少し聞き取りづらい。

 レコーダーを手に持ってるから当然近い、灯矢少年の声が入る。

「泣くという行為がある限り、人は共鳴し合える。
 僕はそう思ってるよ、じいちゃん。
 大丈夫さ、きっとね…」

 レコーダーの停止スイッチを押したか、ブツンという音が入る。

 画面、砂嵐。





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