空の兄弟〈後編〉
79/83ページ
「じいちゃん?」
老人の様子に灯矢少年、思わず立ち上がる。
どうやら、老人が声を荒上げるのはこれが初めてのことらしい。
老人も立ち上がったが、灯矢少年に肩を下へ押さえられてまた座るしかなかった。
「灯矢、お前にわかるかなあ」
老人、見開きの目を、気違いのような口ぶりをやめない。
「心を揺さぶられんでも人間は涙を流す。
異常なほどの空っぽな心でなあ。
戦争はみんなをそうさすねんで。
不気味やなあ。
は、ははは!」
「じいちゃん、ごめんね、今日はこれで終わりにするよ」
灯矢少年、老人をなだめ、8ミリを置いてある方へ向かう。
灯矢少年の開襟シャツの胸元がアップになったところで、画面は再び黒く潰された。
しかし音声はまだ入ったままで、
「なあ灯矢。
いつか戦争をお伽話にしか見なくなる人らにも、俺の話がうまく伝わるやろか?」
だいぶ落ち着きを取り戻したらしい、老人の声が遠くから飛んだ。少し聞き取りづらい。
レコーダーを手に持ってるから当然近い、灯矢少年の声が入る。
「泣くという行為がある限り、人は共鳴し合える。
僕はそう思ってるよ、じいちゃん。
大丈夫さ、きっとね…」
レコーダーの停止スイッチを押したか、ブツンという音が入る。
画面、砂嵐。
…