空の兄弟〈後編〉

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「ねえじいちゃん、こんな最後でこんなことを言うのはおかしいよね。
 でも今だから言うことなのかもしれない。
 長い時間をかけて戦争話を形にしてきた今だからこそ…
 だって、作り始めの時はそんなこと、ちっとも思わなかったんだ」

 灯矢少年の淡々と話すのをずっと聞き入る老人、灯矢少年の言葉が切れるのを待って、

「あのなあ灯矢」

 酒に酔ったみたいに氷水を注ぎ足し、カラカラとコップの中で浮かぶ氷を回して、言った。

「お前なんで、戦争話に興味を持った?」

「?」

「最初の動機、あるやろ。
 それが今まで灯矢を支えてきたもの、そしてそれが、今灯矢の中で忘れてしもたものやろ。
 それを思い出してみ、少しはラクになるやろ」

「……」

 灯矢少年、老人の目を見詰めて考える。

「可哀想」

 言った後にすぐ首を横に振った、老人に怒鳴られるかもしれない言葉だった。

「ええよ、続けてみ」

 老人は鋭い眼光とは対照的な、とても柔らかい口調で促した。

 灯矢少年、一度口をすぼめて唾飲んでから言った。

「僕がね、初めて戦争のお話を聞いたのは10歳の時。
 じいちゃんも知ってると思うけど、東京の動物園の話だった…
 食糧の不足してる時にエサなんかやってられないとか、戦災で檻が壊された時逃げ出されたら大変だとかで、動物園の動物たちを毒殺したっていう、可哀想な事実!
 これを教えてくれたのは担任の先生だった。
 本を読んで聞かせたんじゃない、先生自身の言葉で僕たちに聞かせてくれたんだ。
 僕は泣きそうになった、うん、皆の前だったから泣きたくなかったんだ。
 そして高校生になったある日、偶然テレビの特番で全く同じ話が紹介されていた。
 その時僕はどうした?
 今度は泣いたよ!
 じいちゃんは知らないと思うけど、僕、何かを観て泣いた事なんか無かったんだ。
 それで考えてみたんだ、どうして僕は泣いたんだろう、と?」





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