空の兄弟〈後編〉

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 老人は自分にも氷水を注いでやり、すぐさまそれを飲み干して、言った。

「灯矢、お前が戦争の頃の話を聞きたいって言ってきた時は、ほんま驚いたわ。
 いやでも、運命みたいのは感じたかなあ。
 俺にはたくさん孫おるけど、あんな話をもっと聞きたいと言ったのはお前だけ。
 あいつの字ィ入っとる鷹村灯矢、お前だけや。
 俺の長女、お前の母さんの事やけど、あの娘がお前の父さんと結婚したという事にだって、やっぱり予感があった」

 灯矢少年、両肘を両膝につき、組んだ両手を口元に押し当てる。

 そして、ちらと老人を横へ見て、言った。

「ねえ、じいちゃん、どう思う」

「何が」

「僕が、僕みたいな戦争体験のない人間が、勝手に戦争話を語るのを?」

 老人、灯矢少年の突然の問いに戸惑いを隠せない。

 ずいぶんと間を空け、やっとひと言出る、

「勝手に、ってことではないやろ」

 うんと頷いたものの、灯矢少年の口から洩れるのは溜め息ばかり。

「全く、説得力がないと思うんだ」

「……」

 老人は何も返さない、灯矢少年、続ける。

「僕は苦しみを解ってあげられない。
 いやなんだよ。
 僕は、じいちゃんが体験してきた辛い部分を面白がって、話作りのネタになるだなんて、そんな事を思ってほくそ笑んでるんだ」

 ふと空笑いを混じえて灯矢少年はそう言った。

 しかし老人の目を見る事が出来ない、彼はずっと目を伏せたままだった。





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