空の兄弟〈後編〉

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「また映画か?
 この前も映画を作りたいって、俺の昔の話を聞いてったやろ」

 ガタガタと傍にあった小椅子を引っ張り出して自分の横に座る灯矢少年に、老人は氷水を注いでやった。

「映画ったって、マンガだけどね。
 これは最後の仕上げさ。
 物語の最後で、絵じゃない、本物のじいちゃんの映像を出そうと思って。
 それで遂に完成!」

 灯矢少年は一度くいと水を頂戴して、続けた。

「すごいでしょ、あれ、モノクロの8ミリだよ。
 作品が作品だからねえ、カラーよりは時代の重みを感じると思うんだ」

 こちらのカメラを指差した灯矢少年の手には小型のレコーダー、

「もうさっきから音も録ってるよ、じいちゃん。
 編集で、あのカメラの映像に合わせてこの録った音を流すんだけど、うまくできるかなぁ」

 楽しみで仕方ないらしい、悪戯を思いついた幼児のように含み笑う。

「灯矢、お前はほんま、あの頃の俺によう似とるわ。
 髪の長さもそう、その長さやった」

 くっくっくっと笑い、老人は灯矢少年の、ちょっとくせのある厚い黒髪を掻き回す。

「女の様に長いんじゃなかったのかい」

 灯矢少年、老人の手をそっとのけて言った。

「お前のこの短髪を今に坊主頭にしてみい。
 床に落ちた髪を見たら、自分女やったんかいって思うでほんまに」

 灯矢少年、ごもっともと老人の言葉に頷き、深く椅子に座り直す。





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