空の兄弟〈後編〉
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彼の話を聞けば、もしかしたら別れた後のあいつを感じることが出来るかもしれん。
無意識にそう考えてこぼれた言葉だったとも思う。
でもこの答えも、俺のほんとうの気持ちには嘘のような気がした。
「そんなら聞きな、どう沈むかはお前次第」
瑛子の兄は三日かけて戦災体験を暴露した。
彼の話につられて他の仕事仲間のおっさん達が、俺の話もまあ聞いてくれやと、自分の辛く重々しい過去をぶちまけていく。
話の中休み、俺は一人離れて、少し高い所にある荷物置き場でぐったりしていた。
兄貴に毎晩弁当を届けにやって来る瑛子にばったり会い、彼女は俺に不審を抱いたか、
「木ぃちゃん(瑛子だけが呼ぶ馴れない俺のあだ名)、どこか具合でも悪いの」
横に寄り添ってきた。
ふと背筋が寒いのを覚えて、俺は瑛子にしがみついた。
瑛子がひどく驚いたのは目に見えてる、でもそうしないと、今にも心臓にヒビ入れられて身体中がバラバラになりそうだった。
「何かこわいことでもあったん」
しばらくの間硬直してた瑛子、どうやら俺に写されたらしいその大阪訛りのことばをかけ、俺の頭をそっと抱え込んだ。
誰も見いへん、目尻の奥に溜まった水、俺は目を細めて無理矢理押し流した。
「そうか、俺はあいつの気持ちを、これっぽっちも知ってなかったのやなあ。
あいつ、兵隊さんになれんかったんやろなあ。
なれないまま逃げ回っとったんかなあ」
…