空の兄弟〈後編〉
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俺は高校生でいる間ずっと、横浜の港で荷積みのバイトをやっていた。
伯母さんの足がしきりに痛みだす、俺を養う為に無理に働いた結果だった。
少しでも食費や学費の足しになれば、伯母さんもちょっとは楽になるはずやねん。
俺はがむしゃらだった。あんまり荷物が重たかったんでほんとはよくは覚えてない。
ところで少し唐突に言うが、俺は25の時に
瑛子には兄が一人、彼とはその荷積みのバイトで知り合った仲。
俺より六つ上で、12歳の時に東京大空襲を体験したという。
「あの、空襲てどんなもんやったんですか。僕、一回も遭うたことないんですわ」
「へえっ」
瑛子の兄はぎらついた目で俺を見た。
数年後に聞いたことだが、彼はこの時の俺を、何の苦労も知らんええトコのボンボンやと思うたらしい。彼の口からたしかに聞いた。
「聞きたいか、聞いたってどうなるものでもない。
聞いたら心が暗くなるし、話す方だって気が滅入る」
「はあ、でも、僕と仲ようしてくれはったいとこの兄ちゃんの気持ち、少しくらい解ってやれそうな気ィしますねん」
「なんだ、その兄ちゃん、東京でやられたのかい」
「いや、その後も少し生きとったんですけど」
どうでもよかったはずの鷹のことをこの時持ち出したのは、俺の子供の頃からずっと旺盛なままの好奇心のせいやと思うのだが、その答えでは俺の気持ちにしっくりせん。
あいつは死んでしもた、でも誰もそれを見たわけやない。
あの日あいつが涙した時と同じように、とにかく実感がなかった。
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