空の兄弟〈後編〉
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あいつ、僕が貸したったお守り持ってったままですねん。
ふと愚痴ともとれる言葉を洩らす、この時点ではもうどうでもええ事やった。
けど、そう、と竹雄はまた答える。
じゃあ鷹坊が戻ってきた時訊いてみてあげる。
きっとまだ持ってるよ、こんなに可愛い従弟が貸してくれた大事なお守りだもの。
俺の後頭部を優しく撫でた。
この兄貴は、家族の帰りを待つという言葉に嘘をついていなかった。
俺が中学にあがる前、村を沈めてダムを作るってんで、村人全員が村を離れ、それぞれ新しい境地へ旅立つ事になった。
俺と伯母さんは横浜の海の見える小さな町へ引っ越した。
その際に、竹雄を無理強いでも同居させようと彼に連絡を取ったが、返事がない。
どうしたことかと、伯母さんが再び竹雄の住んでいた部屋へ訪れたところ、竹雄は過労で死んでしまっていた。
やっぱり輪タクなんていう力仕事は向いてなかったのや、そういやあの兄ちゃん顔色も悪かったで。
竹雄の、針みたいに細い身体とユーレイみたいに白かった顔が、今更鮮明に浮かぶ。
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