空の兄弟〈後編〉

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 小学5年生の時、伯母さんの手に引かれ、少々めかしこんで一張羅、東京の下町にやって来た。

 こんな所まで一体何の用やろ?

 初めての東京に驚きと戸惑いを隠せない俺を迎えたのは、中国の戦地から無事に生還した青山家の長男の竹雄たけお

 そして、ぼろぼろの軍服を身にまとって静かに正座する彼の横で、鷹が笑う。

 今まで俺に見せたことのない、屈託のない笑顔を、ぼんやり突っ立ったままの俺に向ける──写真の鷹。

 鷹の右隣に兄の竹雄が並び、この兄弟の後ろで彼らの父と母が静かに佇む。

 竹雄が戦地でずっと持ってた物らしい、しわくちゃですっかりくたびれていた。

 竹雄は鼻頭の黒縁丸眼鏡のブリッジをしょっちゅう人差し指で押し上げながら、伯母さんと話す。

 終戦3年目にしてようやく日本に帰れた事。

 ところが、帰ってみれば我が家が跡形もなく消えていた、全く知らない家が建っていて、全く知らない人達が住んでいた事。

 新たな住処を得つつ自分の家族の戻るのを待つも、全く願いが叶わない事…

 伯母さんが竹雄に、よかったらうちで一緒に住まないか、これでもう青山の血を引くのは私たち3人だけになっちまったものと言った。

 しかし竹雄はこれを断った。

 もう少し一人で待ってみよう、仕事も見つかったばかりなので、この町を離れるわけにはいかないと。

「さあ二人とも、僕の家族に手を合わせておくれ」

 竹雄は言い、初対面の俺の背を優しく押して、牌前に導いてくれた。

 この兄ちゃん、ほんまに鷹の兄貴なんかな、あいつと全然態度違ゃうやんけ。

 そんな事を考えてた横から、伯母さんが俺の数珠を手渡す。

 俺は数珠の絡んだ手を合わせてる間、目をつぶらんかった。

 じっと写真の中のしわくちゃな鷹を見据えとった。

 あれは一体、いつの鷹なんやろか?

 俺の知っとるあいつより、ずっとガキのツラしとるやないか!





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