空の兄弟〈後編〉
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どいつもこいつも腹立つわい。
乳母さん以外にそういう連中がいたのかというたらそうやない、単なる言葉のあや。
けど、この時期から俺の周りでも食べ物が不足して、腹がへっていつも殺気立っていた。
8月に、広島と長崎にピカドンとかいうおっそろしい、なんでも70年間草木が生えてこんという爆弾が投下された時も、終戦を告げられてかなり時間が経っても、俺は空腹に耐えかねていた。
大阪に住んでた頃に近所の奴らに憎しみを込めて「糞餓鬼」と呼ばれていた、そんな状態に近かったようだけど。
ある日、数人のアメリカ軍兵がジープに乗ってうちの村にやって来た事があった。
奴らはにやにや笑いながら、キャンディやらチョコレートやらガムやらをばらまく。
地に落ちたそれらを村人たちは夢中で拾う、なかには取っ組み合ってまで奪うもんもおった。
ほとんどを大人たちに持ってかれてしまう。
俺たち子供は満足できる程の量を手に入れることが出来んかった。
おこぼれを頂戴したかて腹は鳴り止まへん。
子供は全員、目が妖しく光った。
アメリカ人が捨てた吸いかけのタバコにふらりと手が伸びた。
ごくりと唾飲み込んでそいつを口にもってったら、傍にいた洪助が俺の手をぴしゃりとはたく。
ふん、お前だけカッコつけかい、子供の中ではあいつが一番冷静やった。
いや、ただそんな風に見えただけかもしれない、洪助はいつだって辛そうな顔をしていたのだから。
ぐしゃぐしゃにタバコを踏んづける洪助。
あいつの足元でくすぶる煙の臭い。
夏のうなだれる熱気。
頭ん中でぐわんぐわんと鳴り響く蝉の声。
思い出せば今でも胸焼けを起こす。
…