空の兄弟〈後編〉
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5月から6月にかけて再び都市での大空襲。
小さな町でも機銃掃射が相次ぎ、バババと鳴り出せば一目散に壕へ逃げ込む。
それでも何人かは弾に当たって死んだ。
運がいいんだか悪いんだか、俺はただ話に聞くだけ。
空襲に遭うこともなし、目の前で誰かが撃たれて死ぬことも(前年のあのリアカー親父の死以外は)なかった。
次はこの村やろ、次こそは俺も殺されてまう。
想像で怯えるだけですっかりまいっていたけどな。
そういえば、4月のはじめに風結子ねえちゃんが故郷の横浜へ帰った。
学徒動員で横浜の軍需工場に駆り出されてしもうたのやけど、また両親と暮らせると、おねえちゃんはとても嬉しそうやった。
この強制命令は、おねえちゃんにしてみりゃ何の苦にもならなかったらしい。
いつか必ず休みをもらえるから、そしたらここに戻ってくるわ。
空ちゃん元気でね、私はずっと空ちゃんのお姉さんよ。
おねえちゃんは俺にそう言い、級友たちの犇めく狭いトラックの荷台に乗っていった。
ええなあお家に帰れて、おねえちゃんにはお父ちゃんもお母ちゃんもいてはる。
あの小嫌味な乳母のおばさんから離れられて、ほんまよかったなあ。
俺は風結子の幸せを、心の底から願っていた。
それなのに、おねえちゃんは死んでしもた。
いや、死んでしもたらしい、また話を聞いただけ。
5月の終わり頃、東京と一緒に横浜も焔に灼かれた。
嘘やろ、幸せそうに帰っていったおねえちゃんが、何で死ななあかんねん。
俺は、乳母さんのとこへ行って何度も何度も訊いた。
風結子ねえちゃんは無事か、おねえちゃんから手紙か何か届いとらんのか。
しかし乳母さんはまるで相手にせえへん、そそくさと奥へ引っ込みよる、うすら笑んでるようにも見えた。
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