空の兄弟〈後編〉
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1945年、8月15日。
正午になる前に、村の大人たち全員が村長の家の前に集まった。
この催し(?)に俺たち子供は遠ざけられていたけれど、何やらラジオ放送を聴くのだと、どこからともなく情報が漏れた。
俺と、例の三人組、洪助清作易で、大人たちに気付かれないよう物陰に隠れ、村長の家にだけ置いてあるあの妙ちくりんな機械から一体何が聞こえてくるんやろと、胸を弾ませながら耳を傾けた。
けど、ラジオから聞こえるのは雑音、ガーとかピーとか、それに途切れ途切れのむつかしい言葉。
結局、何が何やらさっぱりわからん、大人たちはラジオから何の音も聞こえなくなっても身動きせえへん。
俺たちは不満げに顔を見合わせて、見つからん内にその場を離れた。
その夜、伯母さんが俺に言った。
「戦争が終わったよ。
今日の正午、天皇様がラジオでそう仰った」
しかしどうも実感が沸かない、「日本は敗けました」という言い方の方が、もしかしたら現実味があったかもしらん。
ところが、この後で伯母さんが付け加えた、
「もう少ししたら、鷹がひょっこり帰ってくるかもしれないねえ」
こんな言葉で俺は、ああ戦争はもうないんやなあと、やっと解放感に浸る。
夜中の空襲を避ける為に強制的に窓に貼られていた黒紙を剥がしにかかった。
これで夜でも安心して歩ける、ほんま真っ暗で恐かったもんなあ。
…