空の兄弟〈後編〉

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「あらやだ、何を一人で喋ってしまっているんだろうね、やたら響くのが恥ずかしいじゃないか。
 ほら鷹坊、黙ってないで、お前も何か言ってごらん」

 そういえば、夫が遠征する時もこんな風に言葉を並べたてた。

 相手を引き止める為というわけでもないが、心のどこかではそういった願いめいたものが潜んでいるのかもしれなかった。

「今までお世話になりました、叔母ちゃん、ありがとう」

 言ってごらんと言われて、その場ですぐに思いついた素直な気持ちを、頬を指先で軽く掻いてから鷹は言った。

 すると幸代、左手で口を押さえたから泣き崩れるのかと思ったら、なんとくっくっくっと笑いだした。

「いやだあ、お前からそう、改めて言われるとねえ、くっくっく!」

 まるで昨夜の悟の反応、怒るより先に、なんだいと呆れて口を尖らせる他なし。

「叔母ちゃん」

 気を取り直して、少し真面目な顔つきで鷹は言った。

「叔母ちゃん、またね」

「またね?」

 幸代が口に当てていた手を離す。

 少し考えていたが、

「うん、そうだね、そうだよね…」

 うわずり声で応え、さっと目尻を撫でた。

 鷹、一度頷き、それじゃあと言ってくるりと後ろを向き、ゆっくり歩き出した。

 鷹がこちらを見ないのを幸いに、幸代は首をがくりと垂れ、かろうじて手で額を押さえる。

 と、その時、幸代の後ろの玄関の引き戸ががらりと勢いよく開いた。





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