空の兄弟〈後編〉

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 雀たちが屋根に止まって朝のさえずりを交わす時刻に、鷹は目覚めた。

 傍らで眠り続ける悟に気付かれぬよう、そっと布団から抜け出した。

 抜けた事により出来た布団の空洞、そこに集まる朝の冷たい空気で悟が目を覚ましてしまうかもしれないと、鷹、迅速に空洞を潰す。

 そして忍び足で部屋を出る、子供に気を遣うようになるなんて、ほんとにずいぶん変わったもんだと人知れず含み笑いをした。

 茶の間へ行くと、すでに幸代が鷹の朝ごはんを用意して待っていた。

 慎ましやかに箸を進める鷹に、幸代は、やだねえ、もっと、いつも通りの品のない食べ方でいいのにと、静かに笑って言った。

「ほんとうにねえ、こんな早い時間に発たなくても。見送りだって私だけというわけにはいかなかったのに。
 お前の夢の始まりが、こんな静かなものでいいのかねえ」

 いよいよ全てが整い、鷹と幸代は軒先に出た。

 辺りはまだ陽が射さず、朝もやのせいで冷たい。

「悟くんは、起こさないままでいいのかい」

 鷹、目を伏せて頷く。

「放っといてやれば、いつだってそうだったろ」

「おやまあ」

 幸代、目を丸くし、すぼめたと同時に軽く溜め息をついた。

「まあとにかくね、まずは無事に家に着くことだね。
 兄さんと雪絵さんにくれぐれもよろしく言っといておくれよ。
 …ねえ鷹坊。
 ほんとうに悟くんを起こさないままでいいのかい。
 もしかしたら…」

 最後の別れになってしまうかもしれないんだよ、幸代、言いかけたが口に出せない。





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