空の兄弟〈後編〉
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鷹ははっとなった。
この晩初めて、彼は悟と向き合った。
「今、何て言ったんだ」
濡れっ放しの頬をやっと袖で上下に擦りながら、鷹は言った。
しかし悟、また何も返さない。鷹をただ真っ直ぐな瞳で見詰めるのみ。
月灯りに照らされた蒼い闇が、空の兄弟を包み続ける。
「た
俺、やり方知ってんねん」
そう言うと、悟は再び布団から這い出て、鷹の布団に潜り込んだ。
鷹に寄り添い、脇下までを外に出すと、鷹の作る山をぽんぽんと叩き出した。
「子守唄でも唄うつもりなのか」
少し呆れ返った調子で鷹が言う。
そんな気は全くないのに、鷹の言葉に悟思わずうっうんと咳払い。
「お前知らんの。
寝とる時にな、こう布団の上から優しく叩かれるとな、頭の中がクラクラ揺れてな。
ほんま気持ちええで、簡単に眠りに落ちよる。
お前、年上のくせに…」
言いかけたが、今晩だけは口を悪くするのはよしておこうと、悟は咄嗟に考えた。
「まあええわい、お前、俺の弟やねんからな。
兄ちゃんの俺がしっかりしとらなあかん」
けど、何で俺は、こんなに捲し立ててんねやろ。
俺もこいつみたいに、どっかおかしいんちゃうか。
「どや、眠くなったか、なあ」
「いちいち言葉を掛けるな、眠れるもんも眠れなくなっちまう」
「た
ふと鷹の手が触れて、悟は言った。
…