空の兄弟〈後編〉

54/83ページ

前へ 次へ


 鷹ははっとなった。

 この晩初めて、彼は悟と向き合った。

「今、何て言ったんだ」

 濡れっ放しの頬をやっと袖で上下に擦りながら、鷹は言った。

 しかし悟、また何も返さない。鷹をただ真っ直ぐな瞳で見詰めるのみ。

 月灯りに照らされた蒼い闇が、空の兄弟を包み続ける。

「た、眠れへんねやったら、俺が寝かしつけたる。
 俺、やり方知ってんねん」

 そう言うと、悟は再び布団から這い出て、鷹の布団に潜り込んだ。

 鷹に寄り添い、脇下までを外に出すと、鷹の作る山をぽんぽんと叩き出した。

「子守唄でも唄うつもりなのか」

 少し呆れ返った調子で鷹が言う。

 そんな気は全くないのに、鷹の言葉に悟思わずうっうんと咳払い。

「お前知らんの。
 寝とる時にな、こう布団の上から優しく叩かれるとな、頭の中がクラクラ揺れてな。
 ほんま気持ちええで、簡単に眠りに落ちよる。
 お前、年上のくせに…」

 言いかけたが、今晩だけは口を悪くするのはよしておこうと、悟は咄嗟に考えた。

「まあええわい、お前、俺の弟やねんからな。
 兄ちゃんの俺がしっかりしとらなあかん」

 けど、何で俺は、こんなに捲し立ててんねやろ。

 俺もこいつみたいに、どっかおかしいんちゃうか。

「どや、眠くなったか、なあ」

「いちいち言葉を掛けるな、眠れるもんも眠れなくなっちまう」

「た、お前、なんでこんな冷たいの」

 ふと鷹の手が触れて、悟は言った。





54/83ページ
スキ