空の兄弟〈後編〉

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 ところが、山がぶるりと震え、悟の手を拒んだ。

「うるせえ、あっちいけ」

 無愛想な声色が闇を飛ぶ。

 しかし悟、しばらく膝を抱え込んで鷹の傍らを離れない。

「また風邪ひいたって、知らないからなあ…」

 なんや、そんな昔の事引っ張り出しよんねん、うだうだうだうだ、あほちゃうか。

 悟、構わず再び山に片手を乗せて、今度は思いきり体重をかけて、そっぽ向いたままの鷹の顔を覗き込む。

 闇を蒼白に染める月灯り、鷹の頬の辺りも照らした。

 悟はぎょっとした。出かけた言葉を、思わず呑み込む。

 鷹はゆっくり仰向けになり、再び横へ追いやられた悟をぎろりと睨む。

 いつも伏し目がちな鷹なのに、この時ばかりははちきれぬばかりに瞼を上に押し上げ、両の頬を満遍なく濡らしてもいたのだ。

「見るな、見るんじゃねえ」

 また愛想の無い声で鷹は呟いた、ほんとうに力なく呟いた。

 鷹が呼吸するたび、鷹の唇が小刻みに震える。

「ふうん、なら、見んわい…」

 だいぶ間が空いてから、悟はそう言って、自分の布団に戻っていった。

 あいつが泣いとった、けど、ただ顔に洗い水しただけちゃうのと、鷹の突然の様子にとにかく実感がない。

 彼らは互いに背を向けた。

 やがて、鷹が低くこもった声で言った。

「お前、俺を弱虫だと思ってるだろう」





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