空の兄弟〈後編〉

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 鷹が生家に戻る前夜が、ついに訪れた。

 朝早くに出発したいという鷹の希望があって、その日の水戸部の家の灯りは他よりちょっとだけ早く消えた。

 鷹と悟、ほぼ同時に布団にもぐり込み、部屋の灯りを消した。

 どういうことか、この時の悟は久しぶりに心安らいでいた。

 その理由を、彼自身で考えてみた。

 そうか、あいつがおとなしいからや。

 ここにきてようやっと開き直ったんかな…

 悟はうつ伏せになり、枕の柔らかさを右の頬で受け止めた。

 悟の視線の先には、こちらに背を向けて眠る鷹がいる。

 昨夜までの発作がまるで夢か嘘であったような気さえする。

 ようやっと、俺も何の気兼ねなく眠れるわ。

 だけど…?

「……」

 悟は耳を澄ました。

 静か過ぎるような気がする。

 悟は勢いよく腕を伸ばして身体を起こし、鷹を見た。

 鷹は悟に背を向けたままである。

「た

 悟は柔らかい口調で声を掛けてみた。蒼白の月灯りが彼にそうさせたようだった。

 しかし、言葉が返ってこない!

 いよいよ悟に恐怖が蘇ってきたが、何故か確かめる勇気はあった。

 悟、掛け布団を横へのけ、鷹に近寄ってみる。

 匍匐前進みたく、今の鷹は敵だというのか、そうやろ、だってあいつ、さんざ俺をやきもきさせよった。

「きぃき悪い(具合悪い)ねんか」

 ああ、なのに、今俺は、以前お母ちゃんによう掛けてもろた優しい言葉を言うてしもとるやないか。

 空の坊やの小さな手が鷹の布団の膨らみに伸び、遂に到達した。





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