空の兄弟〈後編〉
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ところが、鷹は昼間は平然としていた。
というよりは、鷹自身、あの脅えは気の迷いと感じている様だった。
「空悟、散歩するけど、お前も来るか」
ここ数日、鷹はお昼を頂戴した後で散歩に出掛けることが多くなっていた。
あと少しで離れるこの小さな村を彼なりに見納めているのだと、悟は理解している。
先日、鷹の姿が長いこと見えないと思ってちょっと心配になってたら、鷹が林から出てきた。
それを一番初めに目撃したのは村の責任者、白髪混じりの肥えた男だった。
子供だけで入ってはいけない林。しかし鷹は子供ではないし、兵隊へ行く身ということもあって、この時は大目に見てもらえた。
「精神集中、精神集中!」
まるで山ごもりみたいに考えているらしい口ぶりで、男はがははと笑った。
悟と洪助らは不平たらたら、なんで叱らへんねや、鷹、苦笑い。
「今日はどこ行くねん」
別にどこだっていい、長いこと履いてない靴の調子を確かめる為の散歩だもの、ズボンの下部にゲートルを巻き付けながら、鷹は悟の質問に答える。
鷹は玄関の縁を跨ぐと、ゆっくりと歩き始めた。
それは、周りの景色をいちいち目に焼き付けられる程度の速さだった。
おかげで悟は小走りせずに済み、なんて酔っぱらいみたいな歩き方なんやろと、鷹の後ろを見ながら心の中で悪態をついた。
ふたりは、小川の流れを橋の上から長い間見つめたり、丘の原っぱで白い雲の群れに彩られた青い空を仰向けになって長いこと見つめたりしていた。
そうしている内に日が暮れ始め、やがてふたりは学校にやって来た。
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