空の兄弟〈後編〉

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 悟の言葉は声にならなかった。

 一体何が彼の声を奪っていったというのだろう?

 悟はすぐに理解した。

 あいつのせいや。あいつが、変な声出して脅えとる。

 すると、悟は突然恐怖を感じた。

 誰かに人差し指で上下へ撫でられた様に、気味の悪い悪寒が彼の背中を伝う。

 悟はもう鷹を凝視したくなかった。

 金縛りらしい自分の身体を、悟は少々呻きながら勢いよく左へ捻ってみせた。

 彼の小さな身体はあっけなく簡単に、鷹の脅えるのを見ないで済む方へ転がった。

 もしかしたら夜が明けるまでずっと動けへんちゃうんかと思っていただけに、この事は空の坊やをとても喜ばせた。

 そして悟は両目を見開き、両耳を両の手のひらで塞いだ。

 耳と手の見えない隙間でゴーッと渦巻く音が、余計に恐怖を掻き立てる。

 どうしてあいつは、俺の横なんかでそうするのやろう。

 どっか他の、俺の見えないとこでしてくれたらええのに!

 聞いてはいけないもんを聞いてしもうた、罪悪感と苛々が悟を襲う。

 布団の、こぢんまりとした空間の中で、空の兄弟たちは震え上がった。

 ふたりがいつ眠りに落ちたのか、誰も知らないし、彼ら自身も分からない。





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