空の兄弟〈後編〉

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 あんまり腹が立っていたので随分時間が経つまで悟は分からなかったが、鷹の様子が可変しい。

 実際には、鷹と風結子の出来事があってから、鷹とまた話すようになっていたにもかかわらず、悟はちっともその事に気付いていなかったのだ。

 それは、鷹が生家に戻る三日前の晩の事だった。

 奇妙な音に悟は目を覚ました。

 この日はたまたま異様に喉が渇いて沢山お茶を飲んだので、布団に入る前に便所に行っておいたから寝小便のほうは平気だったけれど、子供特有の熟睡は得られなかった。

「ふ…う…うう…」

 なんて低い声なんやろう。

 そう、声だったのだ。

 獣の様な、暗闇を迷っている様な声、獣と表現するには少し頼りなかった。

 悟の隣でがさごそと擦れる音がする。

 悟は仰向けで寝ていて、音のする方に身体を向けようとしたが、どうしたことか金縛りに遭ったみたいに身体が重かった。

 首だけは動くようなので、少々痛いけれど右へ捻ってみせた。

 悟は物音を睨んだ。

「変な声出してるんは、お前か、た?」





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