空の兄弟〈後編〉

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 幸代は今度はズボンを手に取り、それの脚と鷹の脚を合わせた。

 ズボンの長さが足りない。幸代はすぐに裾上げされた縫い目を糸切りばさみで抜糸し、くるぶしが隠れるまで裏に折り込まれた布地を引っ張り出す。

 そこで丹念に手で折り目をつけて、裾を縫い始めた。

「眠たいところですまなかったね。さあ、もう行っていいよ」

「そう、おやすみなさい」

 幸代の目の奥が、きらりと光った様な気がした。多分部屋の灯りのせいだろうと納得しつつ、首をかしげながら鷹は幸代に就寝の挨拶を告げた。

 鷹が茶の間を出、襖を閉めて取っ手から手を離した時、視線を流れる様に布地を這う針と糸に集中させたまま、幸代は言葉を零した。

「お前は、私の大切な息子さ。
 いいじゃないか、血縁上はただの叔母と甥っ子だけど、お前を息子同様に見てきたつもりなのさ。
 鷹坊、今よりちょっと小さい頃からお前はこうなることを強く望んでいたね。
 おめでとう、夢が叶ってよかったじゃないか。
 けれどもね、私はお前に万歳なんて出来ないよ。





 お国の為にもしかしたら散ってしまうかもしれないお前に、私は万歳なんて出来ないよ」





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