空の兄弟〈後編〉

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 その日の夜、一度寝た鷹が便所に起きて、部屋に戻る途中で茶の間から灯りが漏れているのに気付いた。さっきは寝呆けていて全く気付かなかった。

「起きているのは、鷹坊かい?」

「叔母ちゃん」

 突然自分の名前が出てきて、鷹は少々ぎくりとした。

 襖を開けると、幸代が何かを繕っていた。

 一年前にこの家に疎開してきた時に着ていた枯草カーキ色の国民服だった。

 幸代の家に来て、学校見学に行った時がそれを着た最後だったのを、鷹は思い出した。

「鷹坊、こっちにおいで」

 優しく呼び掛けられ、鷹は妙に照れを覚えた。

 鷹が幸代の横に立つと、幸代は立ち上がり、上着を彼に着せてみた。

「あれまあ、少し余裕があるように長めに直したのに、袖も裾もちょうどいい具合じゃないか。
 鷹坊、前を閉める時きつくないかい?」

「いいや、大丈夫みたい」

 全部留めたボタンを一気に外して、鷹は幸代に上着を返した。





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