空の兄弟〈後編〉

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 その思いの一方で、鷹は子供じみた様な悲しい表情で、風結子を見つめていた。

 風結子が髪を切っていたのだ。

 顎のラインと同じ高さで、まだ冬を感じる風になびく彼女の美しい黒髪を、鷹は信じたくなかった。

 こないだは酷い事を言ってごめん、彼女に会えたら真っ先に言おうと思って用意していた言葉が、あっという間に掻き消された。

 彼女が自分の好きなおさげを葬ったのは自分へのあてつけなのだろうかと思うと、鷹は自分を支える事が出来なかった。

 鷹は嫌な気分のまま悟捜しに戻ろうと風結子の横をすれ違おうとした。

 すると、風結子はまるで彼を突き返す様に言葉を放った。

「人殺しを夢見る人は、みんな嘘つきね」

 鷹は立ち止まった。

 鷹は、人殺しという言葉が風結子の声に乗るのを聞くのはもう沢山だった。

「あなたは」

 風結子は顔を下に向けて更に続けた。

「あなたは、一体誰? 私はあなたなんか、知らないわ。
 だってそうでしょう、戦争が早く終わって欲しいって皆が皆思っているって、私にそう教えてくれた青山くんは、あなたじゃないんだわ」

 顔を上げなくたって、鷹が嫌な顔をしているのは風結子は分かりきっていた。

 きっと彼はうちの乳母と同じ様に私を睨んでいるんだわ。

 風結子は誰にも知られないように奥で歯を食いしばった。

 そして鷹の横を走って通り抜けようとした。





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