空の兄弟〈後編〉

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 あんまり腹が立っていたので随分時間が経つまで鷹はわからなかったが、悟の口数が減った。

 悟が鷹に突然として罵声を浴びせなくなったのである。

 鷹の顔をじろりと眺め、何か言おうとして大きく口を開きかけるけれど、言葉を発する事をしない。

 そして、そのいつもは生意気で小うるさい口をへの字に結ぶと、横へそっぽを向く。

 それに遭う度、鷹は目を鋭くもしたが、溜め息もついた。

 この重々しい空気を幸代は心配したが、なんでもない、何も気にすることはない、そう言ったのは鷹の方だった。

 理由は解っていたのだ。

 悟の、震えを感じる程に美しい鳶色の目は、鷹の何もかもを見透かしている様で、鷹は怖れと嫌悪を同時に味わった。

 鷹は唾を吐き捨てたくなった。



 それから数日経ったある日の夕方、鷹と風結子がばったり出会った。

 灰色の空だったが、暗くはなかった。

 鷹は神出鬼没の悟を捜していて、風結子は学校の帰りだった。

「岡田、空悟を知らないか」

 鷹は躊躇なく、だけどぶっきらぼうに言った。

「知らないわ」

 風結子はそっと目を伏せて抑揚なく答えた。

「あのクソガキ、俺に石を投げつけやがった」

 鷹のズボンにひと筋白く擦れた跡が見える。

 悟は今日も鷹に言葉を発しなかった。

 言葉を出す代わりに、石を投げた。

 そして姿を消した。

 何も言わないから、どこに行ってしまったのか分からない。





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