空の兄弟〈後編〉
38/83ページ
その様はまるで雪女に見えて、謳い文句のようなその言葉はとても小さな声、耳の利く鷹しか聞こえなかった。
青山は最低だ
人々は戦争なんか早く終われと
思っているはずなんだと
言っておきながら
自分は出兵が決まって
馬鹿みたいに歓んでいる
矛盾だらけの青山は最低だ
嘘つきだ
「なんだと、この、非国民!」
この言葉を怒鳴った鷹の代わりに、悟がはっとした。
風結子が何て言ったのか、もちろん悟には聞こえなかったけれど、鷹が風結子にこの暴言を吐いた事が問題なのはすぐに解ったのだ。
鷹は、風結子が戦争に対して激しい怒りと悲しみを抱いている事を、この時ばかりは忘れていたのだ。
自分の夢がもうすぐ叶うことを、彼女には一番に喜んでほしいのに。
裏切られたという気持ちが渦巻いて、鷹は気分が悪かった。
何も知らない洪助たちが、突然怒り出した鷹を不思議に思いながらなだめている間に、風結子は表情を変えずそのまま家へ向かっていった。
鷹はしばらく黙り込んでいたが、やがて、再び温和な様子で自分の出兵話に花を咲かせた。
悟が途中で姿を消した事にも気付かない程、鷹は夢中になって話をした。
…