空の兄弟〈後編〉
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「ええだなあ鷹兄は。兵隊に行げるこどが決まっでよう」
やがて彼らの話題は、自分が大きくなったら何の軍兵に入るかという話になった。
「俺もさあ、海軍に入りたいな。でっかい母艦に乗って、みんなに見送られるんだ」
「俺、空飛んでみたいわ」
「だったら、陸軍の航空兵を志願しろよ、きっと飛行機を操縦できるようになるぜ」
この時代の少年たちは、年頃になったらお国の為に命を捨てるということを夢見るのが当たり前の事だと思っていた。
恐ろしい価値観である。希望溢れる少年たちが見つめる将来とは、そんな風に命を安っぽく扱うものであるなんて──
「おい、た
悟が鷹のセーターの裾を引っ張って、向こうを指差した。
一体いつからそこにいたのだろう。
積雪の冷気に頬を撫でられて赤い顔をしている風結子が、こちらを見ていた。
「はよ、行ったげな…」
悟に言われるまでもなく、鷹は風結子の所へ行くつもりだった。
でも、しなかった。
何故なら、その時の彼女が今までの愛らしい彼女じゃないみたいだったのだ。
風結子はまるで、少年のように鷹を見つめた。鋭い眼差しだった。
そして、その顔のまま、白い息と共に何か言葉を吐いた。
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