空の兄弟〈後編〉

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 その日の昼下がりに、洪助たち三人組が悟を遊びに誘いに来た。

「空悟、鷹兄いるか?」

「おるけど」

 多分母親からにでも聞いたのだろう、彼らも鷹の出兵話に目を輝かせた。

「おい、た、洪助らがお前の話聞きたいんやって」

 鷹は四人の子供に連れ出され、小川のほとりにやってきた。

 陽射しだけが春めいて、今朝感じた凍てつきはまだ去らない。

 この村の雪がひととおり溶けたら、その時は鷹はもうこの村のどこにもいないのだ。

 鷹は本当に兵隊に行きたかった。

 本来なら十五歳の鷹は徴兵制に掛からない。兵隊に駆り出されるのは二十歳以上の男子。

 だが、未成年でも政府に申請が通りさえすれば、今回の鷹のように少年兵として戦地に赴くことが出来る。

 一体いつ彼が出兵志願の申請をしたのか、誰も知らないけれど。

 とにかく、お国の為に戦う時がついに訪れたかと思うと、鷹はいつまでも武者震いが止まらなかった。

「頑張れよな、鷹兄、敵をたくさんやっつけて、お国の為に役立てよ!」

 そう言うと、洪助たちは一度互いに顔を見合わせてから、これから海軍兵になろうという鷹の為に軍艦マーチを唄い始めた。

 ♪守るも攻むるも黒鉄くろがね
 ♪浮かべる城ぞ頼みなる

 彼らなりの精一杯の励ましが青い空へと吸われていった。





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