空の兄弟〈後編〉
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年が明けると、白銀の世界が待っていた。
山の冬は驚くほど静かで、息が詰まりそうなくらいだ。その空間で降り積もる雪は、どこかしら憐れな感じがした。
そんな日が何日も何日も続き、いつの間にか冬の終わりを迎えていた。
それは、鷹が疎開してから一年が過ぎた事を示していたのである。
二月下旬のある日、悟が部屋の窓を全開した。
凍てついた空気が部屋中に流れ、まだ布団の中の鷹の面の皮をさっと撫でた。
無意識に震えて、それで鷹は目覚めた。
「何を考えているんだ、気でもちがったか」
唸り、枕に顔をうずめながら鷹は言った。
「見てみい、た
こんな時にいつまでも、ぐうぐうぐうぐう寝とるお前があほやねん、なあ」
悟は窓の外の白銀の世界をしばらく堪能していた。
「おっ?」
少々大袈裟に声を上げ、悟は窓の外へ身を乗り出した。
「見てみい、た
ようやく布団から出た鷹は、セーターを袖に通し、白い息を吐きながら窓の前に立った。
深雪に足をとられながら、確かにその人はこの家にやって来るようだ。
その人は家の陰へ姿を消し、しばらくしてからこう叫んだ。
「水戸部さん、電報です」
幸代は玄関のすぐ傍にいたらしく、数秒も経たない内に引き戸の開く音がした。
「電報配達か」
紺色の制服姿が、白い景色の中に溶けて消えてゆくのが美しかった。
「電報やて」
「誰からだろう」
この家に電報など来るはずがなかった。
…